レモンスカッシュ
第4章 M/A
A side
終業式も終わって、クラスの中からは
「よっしゃー!これから遊びに行くやつこいよー!」
「おー!」
ほとんどのやつが、ロケット並のスピードで教室を飛び出して行く中、残ったのは俺と大ちゃんのカバンだけ。
肝心の本人は見当たらない。
どこに行ったのかとキョロキョロしていたら、廊下をパタパタ走ってくる見慣れた姿。
「あ、大ちゃん。」
「相葉ちゃん、これ。」
大ちゃんから手渡されたのは、缶のミルクティー。
「頑張れって、応援の気持ちね。」
「大ちゃん…。」
「夏休み、いつでも連絡してね。」
ふわっとした優しさを残して、大ちゃんは帰っていった。
その優しさに涙が出そうになりながら、
「あ、やば!時間!」
化学準備室へと急いだ。
松本先生のイメージは、あまりいいものじゃない。
だってあの人怖いんだもん。
普通に見てるだけで、睨まれてるんじゃないかっていうくらいの眼力。
くっきりした顔立ち。
「はぁ…。」
またため息が出る。
昨日からこればっかりだ。
恐々と入った先には、松本先生。
ビクビクしてる俺に、松本先生は笑ったんだ。
「そんな怯えないでよ、 ちょっと傷つくから(笑)」
その瞬間だった。
心臓がどくん、と跳ねた。
松本先生が笑った瞬間。
課題の内容なんて、頭に入ってこなかった。
今日は帰っていいぞと言われて、初めて我に帰る。
部屋を出たあと、廊下をぼーっとしながら歩いた。
「これってー…
って、時間やば!」
カバンだけを持って、学校を飛び出した。
明日からの補習授業に、少しの期待を持ちながら。