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黒猫ニーノと相葉さん。

第17章 夢幻泡影。

結局
あの後、オイラたちは蓮園には行かなかった。
声を殺して静かに泣くシゲを抱きしめたまま
ずっとあの場所にいて。

ひとしきり泣いてシゲが落ち着くと
手を引いて館に帰ってきた。



「オーノ君、元気ないみたいやねぇ。
どうかしたん?」



「どうもしねぇよ…」



シゲは部屋の隅で
一人、本を読んでる。





『オーノ君…
僕、人間界に堕ちるよ…。』





好きになっちまった人間には
自分のことを忘れてほしくないのに
自分がオイラたちのことを忘れるのは
構わないっていうのかよ…


ムシャクシャした。
ムシャクシャして
それでいて
悲しかった。






待機の間のドアが勢いよく開いて
皆が一斉にそちらを向くと
オカダッチが立っていた。



「シゲ。親神様がお呼びだ。」


「…わかりました。」



マツニーに呼ばれたことが
何を意味しているのか
事情を知ってるオイラは
すぐに理解した。

読んでいた本をパタン、と閉じて
シゲはロッキングチェアーから立ち上がる。



「シゲ!」


「…ちょっと行ってくるよ」



振り向きもせずに
シゲはそのまま待機の間を出ていった。



「シゲさん、なんか様子おかしないか?
なぁ、オーノく…

オーノ君?」



「マル…オイラも行ってくる」

「えっ? ちょ、待ってや、オーノ君!
オーノ君!!」



呼び止めるマルの制止を振り切って
オイラはシゲの後を追いかけた。

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