黒猫ニーノと相葉さん。
第17章 夢幻泡影。
悪いと思いながらも
シゲの書いた小説を読む手が止まらなかった。
引き込まれていく、シゲの文字の世界。
タイトルは…【妄想ライン】。
【波音に誘われるかのように
僕が向かった先は真夜中の海だった。
潮の匂いを身体いっぱいに吸い込むと
否が応でも生きていることを実感する。
『何してるの? こんな所に居ちゃ、風邪引くよ?』
振り返ると
スーツ姿の男がそこに佇んでいた。
誰にも会いたくなかった。
このまま一人、海に沈んでしまいたかった。
それほど
僕の心は荒んでいた。
『俺、Kっていうんだ。君は?』
『S…』
『S君。
こんな所で一人で何してたの?』
『…海が見たくなって。』
そんなの嘘っぱちだ。
『それなら次はもっと早い時間においで。
また、ここで逢おうよ』
次なんてあるはず無いのに。
『約束だよ?』
肩に置かれた男の手が温かい。
思わずその手に
自分の手を重ねた。
『S君の手、冷たいね。
こうしたら温まるかな。』
男はもう片方の手をさらにその上から重ねて包むと
そっと掴んで自分の懐へと持っていった。
男の心臓の鼓動が掌に伝わり
氷のように閉ざしていた僕の心は
みるみる溶けていった。】
シゲの書いた小説を読む手が止まらなかった。
引き込まれていく、シゲの文字の世界。
タイトルは…【妄想ライン】。
【波音に誘われるかのように
僕が向かった先は真夜中の海だった。
潮の匂いを身体いっぱいに吸い込むと
否が応でも生きていることを実感する。
『何してるの? こんな所に居ちゃ、風邪引くよ?』
振り返ると
スーツ姿の男がそこに佇んでいた。
誰にも会いたくなかった。
このまま一人、海に沈んでしまいたかった。
それほど
僕の心は荒んでいた。
『俺、Kっていうんだ。君は?』
『S…』
『S君。
こんな所で一人で何してたの?』
『…海が見たくなって。』
そんなの嘘っぱちだ。
『それなら次はもっと早い時間においで。
また、ここで逢おうよ』
次なんてあるはず無いのに。
『約束だよ?』
肩に置かれた男の手が温かい。
思わずその手に
自分の手を重ねた。
『S君の手、冷たいね。
こうしたら温まるかな。』
男はもう片方の手をさらにその上から重ねて包むと
そっと掴んで自分の懐へと持っていった。
男の心臓の鼓動が掌に伝わり
氷のように閉ざしていた僕の心は
みるみる溶けていった。】