イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
「いよいよ今夜だな。」
ハルの言葉に、テリザは緊張した面持ちでうなずいた。
ハルとのいつものレッスンが修了したあとは、ルナたちをハルに手伝われ、ドレスアップをされていた。
「変…じゃないでしょうか。」
着せられたドレスは、淡い水色のシフォン素材で、控え目に薔薇の装飾が胸に施されている、とても美しいものだった。
(こんな綺麗なドレス…少し、気後れしてしまう。)
テリザが尋ねると、ハルは彼女の髪留めの向きを直して答えた。
「まさか。よく似合っている。」
(これが終わったら…もうここに居ることもないんだよね。)
……ラッド様とも、離れる。
胸が痛かった。
これでもう関係を深くすることもないのだと思うと、安心するような、寂しいような気持ちが入り混じる。
彼はあれからも普通に接してくれていて、テリザは内心では大きく安堵していた。
『今夜、あなたと出会ったことを...私は忘れられないでしょう』
彼にも、お礼がしたかったけど。
ここに居てはいけないから。
戸が開かれ、ラッドが入ってきた。
ダンスに誘うように、手を差し伸べられる。
「おいで、姫。」
低く、色気を含んだ声で呼ばれると、テリザは吸い寄せられるようにそっとその手に手を重ねた。
―――ならばせめて、今夜は。この人のために、完璧に令嬢を演じ切ろう。
テリザは、微かに震えている指先にきゅっと力を込めた。