イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
ラッドの車の中で、テリザは計画の説明を受けた。
「向こうに着いてから、俺とハルは家捜しをするが、テリザ、君はこの顔を覚えていて欲しい。」
ラッドは一枚の写真をポケットから出した。
遠くからの写真なのか、ピントが合っていないが、一人の男の顔がわかる。
「この人は…」
「ああ、マフィアと手を組んでいると俺たちが踏んでいる、リックという男だ。万が一こいつが人込みの方に現れた場合、足止めをしてほしい。」
テリザは黙ってうなずいた。口を開けば、弱音がこぼれそうな気がしていた。
「だが…」
ハルが付け足そうと口を開くと同時に、ラッドが運転席から振り返った。
「「決して無理はするな。」」
兄弟の声が重なり、視線がテリザに注がれた。
テリザは淡く微笑んだ。
「大丈夫ですよ。」
曖昧な答えかたに、ラッドは道路に目を戻しつつ、苦い表情をする。
「…テリザ、頼むから無茶な真似はしてくれるな。アレクにも聞いたが、君は…」
ラッドは言葉を止めた。
「え…?」
不安になってテリザは彼に向って少し身を乗り出したが、
「いや…何でもない。」
ラッドはそう言って濁してしまった。