イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
なすすべもなく、テリザはバランスを崩して部屋の床に倒れた。
戸が閉まり、ガチャリと鍵のかかる音がして、テリザの背筋が凍った。
恐る恐る振り返ると、見知らぬ男が、息を荒くしてテリザを見下ろしていた。酒が入っているのか、その目は血走っていた。
「可愛いレディが、一人でこんなところにいるのが悪い。」
うわごとのように、男が言った。
「ゃっ…」
接近してくる男から逃れようと、テリザは床に這いつくばったまま後ずさろうとするが、乱暴に床から抱きかかえられ、背後から体に手を伸ばされる。
「やだっ…離し...んんっ!」
口を片手で塞がれ、悲鳴が押し殺された。
素早くタイを噛まされ、頭の後ろで結ばれた。彼を蹴飛ばそうとした足は、あっという間に膝で押さえられ、両手は頭上で拘束される。
(やだっ…こわい…!)
首を振って髪が乱れた。
ぐにぐにとドレスの上から胸を揉まれ、全身に悪寒が走る。
身体がガタガタと震えた。
「悪くない体だな。」
露骨に欲望をあらわにして、涎を垂らしそうな顔で身体を眺められる。
(やだっ…やだっ…やだっ…!)
身をよじっても、男の力に敵うはずもない。
(お願いっ、誰か…)
―――誰かって、誰。
心の中で、怖い程冷静な一部が囁いた。
――そうだった。
どうせ、愛されてはいけない身。もっと汚れようと、何が変わる?迷惑をかけるぐらいなら、もう自分は、どうでもいい。
そう思わねばと考えるのに、反して身体は抵抗を続け、胸のふくらみを揉みしだく男の手から逃れようとしている。