イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
静かに部屋を横切り、テリザのベッドの端に腰を下ろすと、わずかにスプリングの軋む音がした。
色白い寝顔は何とも言えないほど儚げで、触れれば壊れてしまいそうなほど繊細に見えた。
ふわりとしたくせ毛は枕の上に広がり、波打っている。
「テリザ……。」
僅かに掠れた声で、彼女の名を呟いた。
そっと指先で優しく頬を撫で、顔にかかっていた髪をどけてやると、彼女は眠ったまま身じろぎして顔を傾けた。
「ん……。」
両手で抱きしめていないと、彼女が消えてしまいそうな気がした。
ラッドは溜まった熱を持て余すように、指先に力を込めて握った。
彼女の上にかがみこむと、こつっと額を合わせた。
「好きだ。」
唇の触れてしまいそうなほどの距離で、彼女に届くことのない想いを囁いた。
「好きだ、テリザ。」
―――好きだ、愛してる。
彼女に言えたらどんなによかったか。
形にしてはいけないと心に誓った言葉を、止められなかった。
だけど言葉にしてしまえばもう抑えられなかった。
(テリザ……。)
唇を寄せ、触れそうになった瞬間。
強い風が窓を叩いて、ラッドは我に返ったように体を離した。
(……まるで獣だな。)
―――最低だな。
これでは、彼女を襲おうとした男と大差ないではないか。
アレクの言った通りだった。彼女をこの先ずっと守り続けることはできないのだ。むしろ傷つけることしかできないのか。
苦しげな表情をそれ以上抑えることもできず、ラッドはベッドから離れていき、何かをやらかす前にと後ろ手にドアを閉め、踵を返した。
振り向くことは、もうなかった。