イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
そのまま自室に行く気にはなれず、ラッドの足は無意識のうちにテリザの部屋に向かっていた。
何をしに来たのかも、はっきりしない。ただ、彼女の顔を見たかっただけなのかもしれない。
だけど、あんなことがあった後だから、気が引けていた。彼女をあんな目に遭わせたことに責任を感じている。
それから、押えきれずにキスをしてしまったこと。
どう誤魔化せばいいのか…そもそも誤魔化さない方がいいのか。だけど、彼女を受け入れることも、いつまでもそばにいることもできないのだ。
ノックするのも戸惑われ、ラッドは上げかけた手をドアに充てる寸前で、止まっていた。
(……。)
入るべきか否か、自分と葛藤しているうちに、突然ドアが開いた。
「っ、ラッド様…?」
ルナが一瞬ラッドの顔を驚いたような表情で見上げていたが、慌てて下がった。
「し、失礼致しました、気づかずに…。」
「いや、驚かせてすまない。」
ラッドはちらりと部屋の中の方に目を向けた。照明は消されていて、薄暗かった。
「テリザは…?」
「眠られたみたいです。」
ルナは彼女に気を使って声を落として答えた。
「そうか。」
ホッとしていいのだろうか。ラッドはそっとルナに言った。
「入ってもいいかな。誓って変な事はしない。」
そもそも主人の言うことを聞かないわけにもいかないし、ルナはラッドを信用していた。ルナは横に退いた。
「ありがとう。」
ラッドが中に足を踏み入れると、ルナは頭を下げた。
「はい…。私はこれで…。」
ルナが静かにドアを閉じる音がして、ラッドは部屋に残された。