イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
ラッドがブルーベルを後にしてから、アレクがさりげなく様子を伺ってきているのが感じられた。
「テリザ、顔色悪くないか?」
「そう…?平気だよ」
テリザはそう答えたが、念のため壁にかかった鏡を覗きこんだ。肌の色がもともと白っぽいため、顔色が悪いと言われてもぴんとこない。
「顔色が悪いのはたぶん元々だよ」
茶化すと、アレクは顔をしかめた。
「バカ、そんなことないだろ。大体なあ…」
「大丈夫だって。あ、いらっしゃいませ…」
アレクの後ろで、チリンと音を立ててブルーベルのドアが開き、テリザはこれ幸いと声を上げた。
しかしその瞬間、入ってきた人物と目が合った。
突如として、冷や水を浴びせられたような感覚がテリザの体を走った。ドクン、と心臓が強く鼓動を打つ。
「彼」は、穏やかに微笑む。
「久しぶり、テリザ」
───「あの人」。
間違うはずもない。闇のように黒く、短い髪。深い茶色の、やわらかな視線。
どうしてここに?どうして…?
疑問符がテリザの脳内を駆け巡る。
ぐらぐらと眩暈がする。
何故だか、吐き気がした。
それでもテリザの唇は、催眠術にかかったかのように、勝手に動く。
彼女は、掠れた声で彼を呼んだ。
「兄さん……」