イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第8章 織りなす言葉
茫然と、テリザはブルーベルの戸口に立った男を見上げていた。痛いほどに収縮する心臓は、悲鳴を上げていた。
「兄さん……? どうして、ここに」
目を見開く妹に、彼は穏やかに微笑んだ。
「仕事でここの近くの街に用事があったんだよ。お前がここで働いてるってマリアから聞いたから寄ってみたんだが……来てもよかったか?」
湧き上がってくる訳の分からない衝動を殺し、テリザは懸命に微笑んだ。
「もちろん!でもごめんなさい、今は仕事中だから……」
「ああ。今は食事だけして行くよ。店が閉まる頃にまた来てもいいか?」
「うん、分かった」
席に案内してやりながらも、テリザはうなじにちくちくとしたアレクの視線を感じていた。それに気づかないふりをして、彼女は兄から注文を取った。
「じゃあ、エッグベネディクトと、紅茶のセットね」
「ああ、よろしく」
テリザは兄の席を離れてカウンターに向かうと、アレクがそっと声をかけてきた。
「お前の兄なのか?」
「うん……ラルフっていうんだけど」
テリザは紅茶を淹れながら答えて、微笑んだ。
「私に似てなくて、かっこいいでしょ? でも正真正銘、血を分けた兄妹なの」
テリザがそう言うと、アレクはちらりと視線をラルフに向けた。確かに彼は周囲の女性客の視線を惹いている。派手な美男ではないが、優しそうな顔だ。