イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第8章 織りなす言葉
店の閉まる頃に、彼はまたやってきた。薄暗くなってきた外から看板を取り込んでいるテリザに、ラルフは遠慮がちに声をかけた。
「テリザ」
「兄さん」
テリザは微笑みを見せると、兄にぎゅっと抱きついた。
ああ、やっぱりこの兄の腕の中は安心する。大好きな、兄。それなのに、胸の中は穏やかでいてはくれない。
「中、入ってよ。先輩はもう帰ったけど、ケーキぐらいは出せるから」
彼を招き入れると、テリザは手際よく紅茶とケーキを用意し、兄の前に置いた。
「お前はいいのか?」
「うん、ダイエット中だから」
妹の小さな嘘には気付かず、ラルフは「そうか」とだけ言ってケーキにフォークを刺した。
「どう? 彼女とは仲良くやってる?」
「あー……それは……」
ラルフは言い淀むと、ばつが悪そうにこめかみをかいた。
「別れたんだ」
「えええっ?! どうして? あんなに仲が良かったのに」
一度だけ家に来た兄の恋人を思い出してテリザが思わず声を上げると、ラルフは苦笑した。
「彼女の束縛が強すぎて、俺の都合も考えずに押しかけてこられたりして……駄目になった」
あまり話したくなさそうだったため、テリザはしぶしぶ引き下がった。
「……そう。残念」
「何でお前が残念なんだよ」
「だって……兄さんには幸せになって欲しいし」
「嬉しいことを言ってくれるな」
兄の優しい微笑みに、テリザの胸は締め付けられた。