イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第3章 舞踏会
「......お怪我はありませんでしたか?」
間近で囁かれた低く、甘い、優しい声に、不思議と恐怖や不安が溶けていく。
(でも、どうしてだろう......代わりに、胸がざわめいて仕方ない)
甘やかな心地が広がるのを感じながら、テリザは自然と彼に笑顔を返していた。
「大丈夫です......あなたがこうして助けて下さったから」
「............」
(あれ、返事がない......もう行ってしまったの?)
「あの! あなたのお名前は...? 何かお礼を...っ」
ひと目姿を見ようと、急いで目隠しの結び目に手を回すと...――
「名乗ることのことはしていません」
(あ......)
解こうとしていた手を捕われ...指先に、淡いキスが落とされる。
「今夜、あなたと出会ったことを...私は忘れられないでしょう」
「お礼なら......それで充分です」
「え......?」
次の瞬間、手から温もりが離れ...
慌てて目隠しを解いた時には、彼の姿はもうなかった。