イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
「違う、このセットにはセイロンティーだ。紅茶の香りを引き立てろ。」
「っ、はい。」
アレクの厳しい指示の下、テリザはブルーベルのカウンターの中で目の回るような忙しさに見舞われていた。
「ちょっと、ウエイターさーん」
客に呼ばれて、アレクはカップを置いた。
「ここで紅茶淹れる練習してろ。注文取ってくる。」
「はい。」
テリザは大人しくうなずくと、手元の作業に集中する。アレクの教え方は確かに少し怖いが、わかりやすいので、もともと飲み込みと記憶力の良いテリザはそれを確実に頭に叩き込んでいた。
「おい、そこはもっと…」
「…!」
戻って来たアレクは、まだ少しぎこちない手つきでポットに湯を注ぐテリザの手に触れた。
―――油断した。
テリザがびくっと手を引くと、ポットに当たり、熱湯が一気に左手にかかった。
熱さに顔をしかめるテリザに、アレクは慌てて彼女の手を引いてキッチンに向かった。
「何やってんだバカ!すぐ冷やせ。」
アレクが彼女の袖をまくろうと指先を服にかけると、彼女はバシッとアレクの手を払いのけた。
「やだっ…!」
アレクは唖然としてテリザの顔を見つめると、彼女はすぐに気まずそうに目を泳がせた。
「ご、めんなさい…、あの、今のは……。」
アレクは眉根を寄せて目をそらした。
「勝手にしろ。」
吐き捨てるようにそう言うと、テリザに背を向けてキッチンから出て行った。