イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
後に残されたテリザはうつむくと、彼に言われたように手に水をかけて冷やし始めた。
しかし手首の方までひりひり痛んできた。これ以上濡らせば服まで濡れてしまう。
一瞬の躊躇の後、くるくると袖をまくった。その手首の付け根は、うっすらと火傷の跡が覆っていた。
(………隠す必要もなかったか。)
罪悪感にさいなまれた。すぐに痛む手を拭いてカウンターの方へ行くと、トレーを持ったアレクと目が合ったが、すぐそらされた。
「ごめんなさい…ちょっと昔から、男性に慣れていなくて…」
テリザは頭を下げた。これは、嘘ではなかった。いささか男性恐怖症気味のテリザは、気が緩んだ時に男性に触れられると、過剰に反応してしまった。
アレクはしばらくテリザを見下ろしていたが、やがてわしゃわしゃと彼女の頭を撫でた。
「あ、あの」
「わりぃ。」
顔を上げたテリザと目が合うと、アレクは横を向いた。
「これぐらいは平気なんだな?気づいてやれなくて、悪かった。」
「そんな、謝るのは私の方なのに…」
「いいから。」
あたふたするテリザのやわらかい髪をそっと撫でた。
「これから慣れればいいことだ。俺がいいって言ってんならいいだろ。」
優しい手つきに、テリザはほっとして微笑んだ。
「ありがとう、ございます。」
まだ少し距離を置いた口調に、アレクは息を吐いて手を離した。
「お前…本当にその口調、どうにかならねーのか。」
「え?」
「敬語。やめろって言っただろ。それやめたら今回の件は水に流してやる。」