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嫌われ狸の一生

第10章 おばあちゃんと親戚

また迷惑なことに人を車に乗せるのは大好き。

おばあちゃんの家に泊まりに行った時はドライブに連れていってもらったり、帰る時は送ってもらったりした。

この車に乗せてもらうのがまた恐怖で、乗る前には当時では珍しいが殺菌消毒が義務づけれて、靴下になって靴はビニール袋にいれる。

当のおじさんも車専用の靴と外履きはきっちりとかえていた。

その家にもボクより年上とボクと同じぐらいの兄弟がいたが、多分車を汚したと怒って暴力をふるわれたらしい傷跡があって恐怖を際立たせていた。

車に乗っている間は緊張の空間だった。
ちょっとでも咳なんてしようものなら激怒。
自分が怒鳴って唾を飛ばすのはいいのかよとも思っていたが、当時から冷めていたボクは、こんな男に何を言っても無駄と思って黙っていた。

大した車でもないくせに。

このおじさんに久しぶりに会ったのはボクの結婚式。もう車はどうでもよくなっていて、その代わりに写真に凝っているようで、超高級カメラを持って写真を撮りまくっていた。

妹の結婚式の時もやはり写真を撮りまくっていた。

ところで、ボクは幼い頃に植物人間の見舞いに行った記憶があった。

母親にそれとなく訊いたら、それは母方の兄弟の次男だった。

娘が二人いたが、車に跳ねられて幼くして亡くなった。それから、嫁は狂ったように男たちに走り、悪い男と一緒に逃げてしまった。

幼い姉妹を同時に失い、嫁までそんなことになったおじさんは精神崩壊をして植物人間になってしまい、ほどなくして亡くなったとのこと。

そういえば、その姉妹のお葬式に行った記憶がある。はねられたとは思えないぐらいにキレイだった。

死装束といえば白いのが一般的だが、キレイな着物だったと思う。

幼いボクはただキレイだと思っていた。

といってもボクに死体の趣味とかそんなのはないから安心してほしい。

それにしても、おばあちゃんといい、この次男といい、母親といい、家族運がなく悲劇な人生は間違いなく母方の血筋だろう。

もし先祖の悪行の報いだとしたら、先祖はどれほどの大罪を犯したのだろう。想像もつかない。

ボクに残っているのは、つまらない夢を優先して可愛がってくれたおばあちゃんのお葬式にも行かなかった後悔と罪だけである。

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