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嫌われ狸の一生

第26章 涙の1万円・・

妻がボクの母親を憎しみの標的にしてから、両親が家にきたことはないし、ボクもなるべく実家には近づかないようにしていた。

世間には姑と同居して苦労している人もいる。
身近では妻の妹も妻の親友も姑と同居している。

一切関わりがないようにしているのに、あんなに母親を憎み悪口を言い続ける妻はやはり異常だ。

そうはいえ、子供を全くジイジやバアバに会わせないわけにもいかないので、盆と正月だけは子供やイヌを連れて少し実家に行くことにしていた。

やはり孫は可愛いようで、お小遣いやお年玉をもらった。

妻に言うと怒るに決まってるので、妻には内緒というのが子供との約束。

おもちゃとか買っても、親戚が少ないんだからボクだってお年玉ぐらいあげるってことにしておいた。

お正月には妻の実家に親戚が集まるという行事もあり、ボクも参加していたが、母親の悪口を言い続けるのにさすがに頭にきて、お互いに実家のことには干渉しないことにする、だからボクも行かないと言い放って妻と子供だけを行かせるようにした。

最初の頃は親戚にもヘンに思われていたみたいで、妻の両親からなんで来ないのか言われたこともある。

その度に妻が母親を憎んでいることを告げて、カノジョが母親の悪口を言うのをやめてくれるまではケジメとして行かないと言った。

妻はこのことで両親に何度か注意を受けたようであるが、改善されることはまったくなかった。
やはり常に誰かを憎んでいなければいられない精神的な病気なのだろう。

家を建った翌年のお正月にボクは毎年のように子供とイヌを連れて自分の実家に行った。

父親は清掃員ではあるが名の知れた大企業に就職していた。この仕事は亡くなるまで続けたので、父親にしては長続きしたものだ。本当に心を入れ替えたのだろう。

父親は大企業で働いていることを嬉しそうに語ると、今まで何もしてあげられなかったし、迷惑もかけた、新築祝いもしていないと祝儀袋をボクにくれた。

その手触りから札が1枚くらいのものだろうと察しはついた。

その場ではボクはありがとうと素直に言って嬉しそうにしていた。

その夜は妻と子供は妻の実家の新年会に行った。

イヌとふたりきりになってから祝儀袋を開けてみると想定どおり万札が1枚だった。

ボクはイヌを抱きしめると涙を流して酒を飲んだ。イヌは心配そうに涙を拭うように舐めてくれた。

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