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嫌われ狸の一生

第30章 父親の死

病院には足しげく見舞いに行った。

行く度に父親は、今日は何日だとか入院して何日になるとか時間を気にしていた。

詳しくは知らないが、65歳以上になると受取保険金が少なくなったり、医療費があがったりして負担が大きくなる。

死を悟っていた父親は65になる前に逝きたがっていたのかと思えてならない。
65の誕生日の数日前に父親は亡くなった。

一度手術をしてもちなおしたと思ったのも束の間で父親の病状が悪化したと知らせを受けた。
その時の父親にはボクや妹が子供の姿に見えていたのだろう。

早く行くぞ、早く仕度しろ、早く早く

子供の頃、ボクや妹を連れて出かける時にせかしていたみたいに父親は繰り返した。
ボクや妹を連れて遊園地にでも行こうとしていたのか・・

とりあえず大丈夫だと医者が言うのでその夜は帰った。翌日は出張だし。

家で酒を飲んでいたら母親から電話。
しばらく安静に眠っていたが、そのまま眠るように亡くなってしまったとのこと。

子供の頃のボクや妹を連れて行こうとしていただろう遊園地は向こうの世界にあった。逝ってしまったか・・

今日は大丈夫とは医者も当てにならない。

珍しく妻が病院まで車で送ってくれた。

病院というのは人が亡くなってもスゴく事務的。やれ死亡診断書だとか葬儀屋は決まったかとか早く遺体の引き取りをとかスゴくせわしない。

妹の夫が一年くらい前に母親を亡くしたので、葬儀屋とか寺に心当たりがあって助けられた。

葬儀屋は決まっても寺が決まらないと葬儀もできないから早く決めてくれとか本当にせわしない。

とりあえず落ち着いて母親とふたりで斎場に泊まった。

こんな時になんだが、大事なことなのでボクは借金について尋ねた。もし残っていたら遺産放棄だって急がなければ・・我ながら冷酷だと思うが仕方ない。これが貧乏人の思考だ。

借金は母親の助けもあって完済したとのこと。
よかった。

母親も父親には思うところがあったみたいで、いろんな話を聞かされた。
借金返済をだいぶ助けたのにありがとうの一言もないなんて父親らしい。

翌朝、ボクは一緒に出張する人に連絡をとり、書類を渡して、そのまま会社に行って休暇手続きをして葬儀には会社の人の参列は不要の申請もして一連の
手続きをしてきた。

そして葬儀屋との打合せの刻限までに斎場に戻った。



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