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どうか、

第1章 明野の加害。

「なあ、桜太郎はいるのか?」

「なにが?」


「彼女だよ」 少し照れたように耳を赤くして呟く高木。レアである。


「いないけど…そういえば高木はできたんだよね、彼女」


そういえば、なんて言葉を選んだが正直そのことは今日1日やはり頭からこびりついてしまい、どう頑張っても剥がれることは無かった。

子供の頃みた母の洗い物はフライパンの裏にある張り付いたぱりぱりの油汚れに1時間ほどかけていた。その時の母も今の僕と同じ気持ちなのだろうか。主婦とは大変である。





「…うん、まあな」


「よかったね、昔言ってた夢が叶うかもしれないじゃないか」



「俺が、昔言ってた夢?…営業課のエリート上司の机の上にある万年筆の先を真っ二つに割くこと?」



「あぁ、それも言ってたね。そういえばあいつ異動したんだっけ?夢叶えた?」


「いーや、無理だったね。代わりに異動前日にパソコンのデスクトップをいい感じにしてやったよ」高木はいたずらっぽく笑った。ああ、だからあいつのディスプレイに女性の太もも画像が大々的に移されていたのか。いけてるじゃないか。




「で、俺の言ってた夢ってなんだよ」



「もし彼女が出来たら1回は車の中でやりたいって言ってただろ」



「あー…そうだっけな」



「いまどきカーセックスっておっさんかよって思ってたけど、もう僕らいい歳だよな」



「そうだな。おっさんの脳は恐ろしいもんだ。もうちょっとキケンなことも試したくなるからな」


「キケンなこと?」




「野外プレイ」高木はいたずらっぽく笑った。だがさっきのデスクトップの時とは変わった笑みである。僕の背筋は栗立った。





「高木の変態じじいめ」

「お兄さんと呼べ」


「おっさんじゃないのかよ」


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