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10分屋【ARS・N】

第9章 コーヒーチケット

二「いらっしゃい。今淹れるよ。」

アキコ「ありがと。」

俺はキッチンに立って、コーヒーメーカーのタンクに水を入れた。

戸棚から缶を出してコーヒー豆をメジャーですくい、コーヒーメーカーにセットする。

スイッチを入れたあとは、アキコさんと話をしながらコーヒーが出来上がるのを待つ。

二「相変わらず忙しそうだね。」

ア「まあね…。それより、目黒のサンマ祭りのこと聞いた? 今年は冷凍サンマらしいわよ。」

二「そうなの?」

ア「サンマが大不漁なんですってよ。」

そんなたわいもない話をしている間にコーヒーが出来上がった。

二「はい、どうぞ。それにしても、よくこんな安いコーヒー飲みに来るよね。ディスカウントストアで一番安い豆だよ。」

ア「これがいいのよ。カズと一緒に馬鹿話しながら飲むのがいいのよ。」

アキコさんは、その安いコーヒーをブラックで飲んだ。

二「まあ、〝ブルーマウンテンしか飲まない〟なんて言われたら、豆代請求するけどね。」

俺も、ブラックのままコーヒーをすすった。

ア「あはは…。本当にカズはしっかりしてるわね、頼もしいわ。」

二「俺はお金が大好きなんだよ。じゃなきゃ、こんな裏稼業やらないさ。」

アキコさんとふたり、ケタケタ笑った。

ア「じゃ行くわ。ごちそうさま。」

アキコさんは、財布から千円札を出すように、帯封のついた札束を出した。

俺はそれを受け取った。

アキコさんは、真っ赤なバーキンを腕にかけた。

二「またおいでよ、安いコーヒー飲みに。」

ア「あはは、すんごく高いコーヒーよ?」

二「それもそうだ。」

別れ際に俺をハグして、アキコさんは部屋を出て行った。

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