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泣かぬ鼠が身を焦がす

第9章 磯の鮑の


どどど、どうしよう

なんで杉田さんの家の事なんて急に気になったか?
え、えぇと


「杉田さん夜は最近ずっとここにいるからさ、ちょっと鬱陶しくて。なんて言えば家に帰るかなって」


迷って迷って
でも、早く答えなきゃいけなくて


咄嗟に出た答えに、自分が1番驚いた


うわ、俺なんてこと言ってんの
思ってもないとかそんなレベルじゃな…………い……


「そうでしたか」
「……うん……」


でも変にフォローとか出来なかった


伊藤さんは前に俺のこと好きって言ってくれてた人だし
本当にそうだったとしたら、社長が好きなんて酷すぎる

それに、俺なんかの立場で社長が好きとか
そんな厚かましいこと言えるわけない


にしても、俺の言ったことは最悪だけど


「……」
「では、ご予定はお伝えしましたので本日はこれで失礼致します」


黙り込んだ俺に、お辞儀をして去っていく伊藤さん


恋って、こんなに自己嫌悪になるものなの?
なんか全部痛いわ
心とか、身体とか
そういう括りじゃなくて

なんて言ったらいいかわかんないけど
俺の全部が痛い


「くそ……ばか」


ぽつり、と呟いた声は広い部屋の中に広まって解けた

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