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泣かぬ鼠が身を焦がす

第9章 磯の鮑の


いや、それはそうだけど


「……」


伊藤さんから伝わっていないのにわざわざ俺が言う必要もないし
ってなると、何て言えばいいのかわからなくて黙ってしまう

すると


「静から聞いた」


と言われた


「え!? な、何を……?」
「ノラが、俺は家に帰らないのかと聞いていたと」
「!」


うわうわ
やっぱり伝わってた

どうしよう


動揺する俺に反して杉田さんは落ち着いていて、晩御飯を既に食べ進めていた俺に追いつくように早くご飯を食べる


どう、しよう
謝る?
言い訳する?


「……」


また俺が黙ると、杉田さんは食べながら俺を見た


「ノラ?」
「……っ、ごめん……なさい……」


杉田さんが俺を呼んだ声が、何となく責めてるように聞こえて
俺は勢いに任せて謝った


俺の立場で言っていいことじゃなかった
それに、もしこれで杉田さんの気分を害して出て行くなんてことになるのも嫌だ

俺、もう少しここにいたい

から
だから


「こめんなさい」


頭を下げて謝ると、杉田さんが俺の方へ手を伸ばしてきて


「!!」
「そんなに怯えるな。髪が茶碗に入ってる」
「あ……」

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