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泣かぬ鼠が身を焦がす

第10章 3日飼えば恩を忘れず


「あ、言い忘れてたんだけど住んでるんじゃなくて店やってるんだよね」
「店?」
「そう。バーね」


エンジンをかけて、とりあえず車を走らせ始めた杉田さんに「ここ右」「次の信号左側ね」と指示を出す

そうして着いた場所は


「おいノラ。ここは」
「うん、まぁ。お察しの通り」


同性愛者の楽園として有名な
あの場所


「こんなところで店、って……」
「あ、はは……まぁ、あの……ゲイバー?」
「先に言え」
「痛っ、ごめん」


軽く頭を叩かれて、謝罪の言葉を口にする


やっぱ抵抗あったかな


「待っててもいいよ?」
「いや、行く」


黙ってたことに申し訳なさを感じつつ聞いてみたけど、即答されてちょっと驚く

「じゃあ行こう」と車をとめたパーキングから歩き始めると、杉田さんは大人しく着いてきた


キラキラと輝くネオン
店から漏れるカラオケの音


懐かしい
そして落ち着く


迷わずに歩けるのは、何を隠そう俺がここで暮らしていたことがあるから

今から会う人も、その時に出会った人


「ここだよ」
「……」


反応に迷ってる?
それとも、店に入るか迷ってる?

きょとん、とした感じがなんか面白いな

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