
泣かぬ鼠が身を焦がす
第16章 馬に蹴られる
俺の元気の良い返事に、今度は少し声を上げて笑うヒトミさん
「なら決まりね。でも、作るものはこれでいいの? この前雑誌で見たから思いつきで選んだんだけど」
「……いい」
思い浮かんだのは、この前拓真さんがお風呂に浮かべてくれてたバスキャンドル
これじゃ浮かべるのは無理かもしれないけど、浴槽の淵に置くぐらい出来るだろうし
「むしろ、これがいい」
「そう。なら、さっさと掃除しなさい。道具の場所は知ってんでしょ。アタシは寝るわ」
「はい!」
大きな欠伸をしたヒトミさんはソファに寝転がって目を閉じた
俺は立ち上がって、掃除道具のある場所まで移動する
これで、どうにかなるかもしれない
俺の手作りで、しかも練習なんてしてる暇ないから難しいかもしれないけど
それでも、何かしなきゃ
「良かった……本当に……」
俺は呟いて箒を握り締めた
やっぱヒトミさん大好き
化け物なんて言ってごめん
ただの化け物じゃなくて心優しい化け物だったんだね
「よし、がんばろ!」
俺は店へと続く扉を開いて、昨日の客が落とした酒のつまみや色んなもので散らかる店内の掃除に意気揚々と取り掛かった
