
泣かぬ鼠が身を焦がす
第18章 遠くなれば薄くなる?
静は朝と同じように小さく息を吐いた
「本日の残りのご予定はキャンセル致しました。……私に話す気がないようなので、せめてごゆっくりお休みになって下さい」
有能な秘書の気遣いに、申し訳なさが募る
「……あぁ、悪い」
「すみません、行き先を会社に変更してください」
「いや、朝迎えに来てもらったところに行ってくれ」
「畏まりました」
「いいんですか、社長」
何か察するところがあるのか、静は真剣な顔で俺を見つめる
「あぁ」
明日
明日ちゃんと話すから
俺は心の中でそんな風に言い訳を繰り返す自分が心底嫌になった
ホテルに戻って、何も考えたくないからシャワーを浴びて早々にベッドに入る
昨日みたいに考え事をしていては朝までの長い時間を耐えられない、と少しの酒を呑んで思考を鈍らせて
俺は、こんなに純のことが好きだったのか
そんな風に考えて
次に
例えば純がウリなんかじゃなく、あの男が好きなんだとしたらどうしよう、と考えた
良い大人なんだから、俺が手を放してやるべきなんだろうか
……あぁ、酒の入った俺の思考は随分寛大だな
気がつけば俺は深い眠りに落ちていた
