
泣かぬ鼠が身を焦がす
第18章 遠くなれば薄くなる?
しかし、緊張感は扉を開ける前に戻ってきてしまった
「社長」
「なんだ?」
「こちら、報告がありました」
静に渡された1枚の紙
そこには純を送り迎えしていた運転手が、送った先が変更になったことを伝えるものだった
「……」
頭の中の嬉しさが霧散する
現実を目の前に突きつけられ、頭の中にはまた緊張感が戻ってきた
俺は「わかった」と言って紙を静の手に返して、純がいる部屋の扉を開けた
「おかえっ…………り…………」
扉を開けた時すぐに俺の方を向いた純の、明らかに動揺した態度
その態度の不自然さに緊張感に加え苛立ちが心の中を埋めた
「あぁ」
俺は平静を装って持っていたプレゼントを部屋の隅に置く
なんだ、その態度は
昨日純が駅で男と会っていたのを俺が見ていたこと、何かで知ったのか
なら、言い訳でもするか?
と考えて、本当に言い訳なんてされたらどうするんだと自己嫌悪に陥った
視界に入ったテーブルの上には、少しも手がつけられていない食事が残っている
本来なら何も告げなかった俺が悪いのだが、俺は苛立ちのまま
「食事を無駄にしたりするな」
と言ってしまった
普段なら嫌味の1つでも返してくる純はオドオドした態度のまま「ごめん」と謝るだけ
