
泣かぬ鼠が身を焦がす
第24章 鬼も仏も
俺の嗚咽が止むと、拓真さんはゆっくりと俺と身体を離して目線を合わせてくれた
「落ち着いたか?」
「……うん。ごめんなさい。仕事中なのに、こんなところで急に叫び声あげて」
「構わない。……まぁ、俺以外の人間も隣の部屋にいたら大変だったけどな」
少し茶化すように拓真さんは言ったのに、今の俺はそれを冗談と取ることが出来なくて
「ごめんなさい……」
と沈みきった声で謝った
俺の様子に驚いた拓真さんは、俺の腕を摩る
「……震えているな。以前話してくれたトラウマを思い出したんだから、仕方ないか」
体温の高い拓真さんの手が俺の身体を腕からあっためてくれて、じんわりと心に染みた
「茜さんに、あの人が視察に来るって聞いて……急に、不安になっちゃった……」
「そうか」
拓真さんの返事はその三文字だけで、それから黙って頭を撫でたり背中を摩ったりしてくれた
「仕事中だったよね、ごめん」
「謝らなくていい。社内でする仕事にはそこまで気を張るようなものはないからな」
「……そっか」
気を使って言ってくれたのか本音なのかはわからないけど、拓真さんの優しさで俺の身体は少しずつ落ち着いた
