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泣かぬ鼠が身を焦がす

第25章 合縁奇縁


でも、拓真さんが遠ざかるほど何か言わなきゃって気持ちが強くなって


「拓真さん」


俺は掛ける言葉も決まらないまま声をかけていた


「どうした?」
「え、と、あの……」


頑張って?
違うだろ

ごめん?
謝るなってこの1週間何度も言われたっつの

じゃあ、なんて


「……」


俺が黙っていると、拓真さんは歩いて俺のところに戻ってきて


「……っ」


ぎゅ、と一瞬強く抱き締めた


「大丈夫だから。俺を信じていてくれ。問題なく終わらせてみせる」
「……うん」


自信ありげな発言をした拓真さんはふ、と笑って俺の頭を撫でると、今度こそ部屋を出て行ってしまった


俺も、絶対見つからないように隠れよう


「大丈夫、大丈夫」


胸に手を当てて拓真さんと同じ言葉を口に出す


視察は午前中からって言ってたな
会社の視察に1日かけたりすることはないから、数時間程度

大丈夫
問題なんて起きるはずない


俺は深呼吸をして、部屋にある俺の物を全部纏める


俺のもの
もしくは人がもう1人いるって思われるようなもの
もうないな

よし


そして俺はそれを持って、クローゼットの中に入った

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