
泣かぬ鼠が身を焦がす
第25章 合縁奇縁
荷物を纏めたのを持って社長室に戻ると、母さんが拓真さんの書いた条件の紙に何かを書いていた
近づいてみるとそれはサインで、ちゃんとした「契約」として守らせるためのみたい
でもそんなの意味なんてない
どっちにしても、俺はその紙切れ1枚でここから出て行かなきゃいけないんだ
「……」
口がなくなってしまったんじゃないかってぐらいに、俺の顔の下半分が動かない
「これでいいですか」
「はい」
俺は2人の事務的な取引を見つめる
母さんは自分の名前の横にハンコの代わりに拇印を押して拓真さんに差し出した
それで契約成立、というように安心した顔になった母さんは笑顔で立ち上がる
「では、これで失礼します。純、帰ろう」
その笑顔の
なんと胡散臭いこと
拓真さんは俺より、この人のこの笑顔を信じたってことなのかな
「……」
もう反抗する気力もなくて、もしかしたら俺拓真さんの仕事の邪魔とか結構してたし元々このつもりだったのかもなーなんて理由をこじつけながら母さんの横へと歩いた
その途中で拓真さんが何か言いたげに俺の手首を掴んだけど
「……っ」
「!」
俺はそれを勢いよく振り払った
