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泣かぬ鼠が身を焦がす

第26章 嘘八百


「それでは、これで本当に失礼します」


会社の下
タクシーの前で、母さんはまた拓真さんに頭を下げた


「カメラ等の条件は後日またお知らせ致しますね」


母さんは清々しいような笑顔で拓真さんに語りかけ、最後には


「純も、ほら挨拶しなさい」


なんて言った


母親ぶるな
気持ち悪い


俺は視線は地面を見たままで少しだけ頭を下げる

隣の母さんは呆れ気味に「もう……」と言って拓真さんに俺の不躾な態度を詫びた


「さぁ、車に乗って。帰りましょう」
「……」


母さんに勧められるがまま、車に乗り込む

後から母さんも乗って扉が閉まると、拓真さんと伊藤さんの姿はほぼ見えなくなってしまった

住所を告げられた運転手さんが車を動かすと、その僅かにしか見えていなかった拓真さんたちも見えなくなってしまう


「……」


黙り込む俺

その横で、母さんの顔から作られた笑顔が消えていくのを感じた


「はーーーー……」


大きな溜息は、きっと自分の中から優しさとか何もかもを吐き出す行為だろう

母さんは首を左右に傾けて


「疲れた」


と一言

その声色は、拓真さんたちといた時から比べてワントーン低い

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