
泣かぬ鼠が身を焦がす
第30章 歩く足には
すると
「ノラぁぁぁぁぁぁ!!!!! ありがとぉぉぉぉぉぉ!!!!」
と部屋中に響き渡るほどの大声で叫んだ
視界の端に映った拓真さんが大きな声に迷惑そうな顔をしている
薄情者!!!
「ノラぁ!!!」
「わっ!?」
茜さんは叫んだ後勢いよく俺に抱きついて来た
それをなんとか受け止めると、服の肩あたりが濡れたような感じがする
泣くほど喜んでくれるなんて
俺も嬉しい
そう思っていると
「茜」
拓真さんが茜さんの名前を呼びながら俺から引き剥がした
「もう1つ言わないといけないことがあるだろう」
「ふ、ふぇ……? あ、そうでした……」
「早くしろ。仕事の開始時間までそう遠くないぞ」
茜さんは時計を見てハッと気が付いたような顔をしてから、「ちょっと待ってて」と俺に言って部屋を名残惜しそうに出て行った
嵐のように泣いていた茜さんが去って行って、俺と拓真さんの2人が部屋に残される
「……」
「……」
特に話す事も見つからなくて黙っていると、拓真さんに後ろから
「喜んでもらえて良かったな」
と言われた
「ほんと、良かった。まぁ、すんごい遅くなっちゃったけどね」
