
泣かぬ鼠が身を焦がす
第30章 歩く足には
俺がそう言って振り返ると、何でか拓真さんは不機嫌そうな顔をしている
「?」
なんでだ?
謎の不機嫌に首を傾げていると、拓真さんが手を伸ばして来て
「!」
両手で俺の両頬を挟んだ
「にゃ……にゃにしゅんやよ……」
何すんだよ、って言いたかったんだけど、中央に寄せるみたいにされてるせいで上手く話せない
俺は一応口でも言ったけど、視線でも抗議する
そしたら拓真さんの顔が徐々に近づいて来て、そのまま触れるだけのキスをされた
「!!」
こ、こんなブサイクな顔のままキスするとか
なんか猛烈に恥ずかしい……!!!
つーか茜さんとか見てたらどうすんだよ!!!
茜さん何か用事があるだけですぐ戻ってくるんだろ!?
俺から口を離した拓真さんは俺の顔の間近で
「茜にも、あまり懐きすぎるな」
と言って来た
さっきも伊藤さんと喋った後に言われたセリフ
なん、だよ……それ……
また嫉妬とか、ちょっと嫉妬深すぎるんじゃないの……
俺は伊藤さんの時と同じように「懐いてねーよ」って返したけど、言った声はすごい小さくなってしまった
だってなんか
拓真さんが嫉妬心ここまで全開にすんのって珍しくて……なんか、照れ臭い……恥ずかしい?
とにかくなんかムズムズするんだもん
