
泣かぬ鼠が身を焦がす
第30章 歩く足には
俺が拓真さんから目を離して距離を取って、顔に溜まった熱を逃がしているとまた扉がノックされて
「失礼します」
と茜さんが入って来た
でも、入って来た人は1人じゃなくて2人
茜さんの後ろに隠れるように女性が1人い……る……って
「あーーー!」
突然大きな声を出した俺に、茜さんが驚いたような顔をする
ごめん茜さん!
でも!
「お手伝いさんだ!!!!」
茜さんの後ろを歩いて来ていたのは、俺が自分の家から逃げる時にお世話になったお手伝いさんだった
服装は当然あの時と違うけど、絶対忘れないように顔だけはちゃんと覚えてる
忘れられるはずない
比喩じゃなくて、本当に俺の命の恩人なんだから
お手伝いさんは、ちょっと恥ずかしそうに茜さんの背中から出て来た
「お久し、ぶりです……」
俯き気味に俺に笑いかける姿は前と変わってない
「良かった! 良かった! あの家から出られて本当に良かった!!」
俺が目を潤ませながらお手伝いさんの手を握ってぶんぶん振ると、お手伝いさんも笑って
「ありがとうございます。純様がお元気そうで私も嬉しいです」
と言ってくれた
