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泣かぬ鼠が身を焦がす

第30章 歩く足には


けど拓真さんにそれが通用したのかしてないのかわからない

だって拓真さんずっと黙ったままだから


「……」


なんだよ
なんか言ってよ


強く抱き締められた体勢のまま長くいられると、さっきの茜さんの言葉が蘇ってきて

結局俺は拓真さんに言われた通り拓真さんの胸を借りて涙を流していた


「……っ、ぅ」


小さな嗚咽を漏らしながら拓真さんのスーツに顔を埋めると、スーツが濡れるのも構わずに後頭部を撫でてくれる

その手の大きさに安心して、俺の目からはまた涙が出た


「……たくま、さ……」
「なんだ?」


小さい声で名前を呼んでも、必ず返してくれる

それが無償に嬉しかったことは秘密だけど


「かおりさん……助けてくれて、ありがと……」


自分がお願いしたことに対するお礼ぐらい、ちゃんと言わなきゃいけないよね


「あぁ。良かったな、彼女が元気そうで」
「……ん」


俺は暫くそのまま拓真さんに抱き締められて、背中や頭を撫でられながら仕事の開始まで時間を使わせてしまった


拓真さんが仕事に行ってしまうと、懐かしい引き篭もり生活が再びやってきた


いや、拓真さんの家でも引きこもってたけどさぁ

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