
泣かぬ鼠が身を焦がす
第32章 愛してその醜を忘るる
けど俺としては顔が見えなくなったのと、拓真さんに抱き締められてる安心感でちょっとだけ言いやすくなった
「……だからね、俺……あの……」
言いやすくなったからってすんなり言えるわけじゃないんだけどさぁ
「拓真さんに……変に思われたらどうしよう、って……思って……」
ごめんなさい、と最後に小さな声で呟くと、拓真さんの腕に更に力が入る
け、結構苦しいぞ
そして拓真さんは俺の耳元で大きなため息を吐いた
な、なに
やっぱり怒ってる?
「ごめーーーー」
「よかった」
俺がもう1度謝ろうとすると、拓真さんが同じぐらいのタイミングでそう言った
よかった?
「?」
「じゃあ、そもそも体調は悪くなかったんだな」
「……うん」
「そうか。それは、本当に良かったな」
なに言ってんの
拓真さん
「嘘吐いてたのに?」
「俺に嫌われたくなかったから、なんてそんな理由で俺が怒ったりするわけないだろう」
「……ちっとも怒ってない?」
「わからないか? 怒ってないどころか、喜んでいるだろうが」
それがこの苦しいぐらい抱き締めてるやつ?
喜んでるんだ……
そっか
よかった
