
泣かぬ鼠が身を焦がす
第35章 秘事は
そして少しすると拓真さんの言った通り喫茶店が見えて来た
道路から海に突き出すように建てられた小さなお店は童話に出て来そうなほど可愛い見た目
駐車場も数台しか止められない小さなものだったけど、平日だしお昼前だしで車はいなかった
「うわ、海風気持ちいい」
車から出ると潮の香りがするかぜに吹かれる
「飛ばされるなよ」
「そんなに風強くないし俺だってそんな軽くないよ!」
拓真さんのちっちゃい意地悪にしっかりツッコミを入れてからお店の中へ
うーん、期待を裏切らない可愛さ
ちょっとレトロな感じっつーか
気取ってないのにオシャレって感じ
カランカラン、とドアベルが鳴ると、お店の奥から中年……よりちょい上ぐらい? の女の人が出て来た
「いらっしゃいませ」
その人は拓真さんに微笑みかけて席へと案内してくれる
窓際の席に座って女の人がお水を持って来てくれると、その人が
「お久しぶりですね」
と話しかけて来た
え、俺……?
お会いしたことありましたっけ?
いやいや、ないない
俺は海なんてほぼ来たことないって
つーことは……
「えぇ。ご無沙汰しています」
