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泣かぬ鼠が身を焦がす

第35章 秘事は


俺は「そっか」と答えて拓真さんから目を逸らして下へと続く石段を見た


「……俺はね」


そして、ぽつぽつ話し始める

知らないくせにって言われたら怖いから、目は逸らしたまんまだけど


「拓真さんのお母さんが怒ってたんだとしたら、お参りに来たことに怒ってたんだと思うよ」
「?」


ゆっくり話す俺を、拓真さんが意味がわからない、という顔をして見ている


「何故だ?」
「……だって、もし俺が今死んだら、拓真さんにはお墓参りに何度も来て欲しくないから」


俺の言葉に拓真さんの手がピク、と動いた


「……行ってはいけないのか……?」


気落ちした声

俺が拒絶してるって思ったかな
違うよ


「こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、人は死んじゃったら何も出来ないんだよ。どんなに好きでも、恨んでても、死んだら全部終わりだ」
「……」
「だから俺も、死んだら拓真さんに何もしてあげられない……今だって十分、何もしてあげられてないけど……だから……」


だからね、と俺は少し本音の滲んだ話を戻す


「俺がもし死んだら、何もしてあげられない俺のことなんか忘れて、幸せになって欲しいって思う」


泣きすぎて、波の音が遠い


「……俺は、自分が忘れられることよりも……拓真さんが幸せになれない方が嫌だ……」

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