
泣かぬ鼠が身を焦がす
第35章 秘事は
「さっき、母が喜んでいるように見える、と言っただろう」
「うん」
「さっきまで俺は母が長い時間をかけて俺を許してくれたんだと思った。もしくは、久し振りに俺が見舞いに来て喜んでいるのだろうと」
だが違ったな、と拓真さんが言ってお墓の方を見る
「母は俺がちゃんとした社会人になって、大切な人を見せに来たから喜んでいるんだ」
拓真さんがまた俺の頭を撫でた
大切な人、というワードに胸がきゅん、と締め付けられる
「純の言っていた通り、俺が自分1人でも幸せを掴めたんだと証明出来たから」
そう言うと拓真さんは俺を立たせながら自分も立ち上がって、お墓に歩み寄った
そして、持って来ていたのに墓前に供えていなかった花束を供える
お墓から離れて華やかになったその様子を確かめた拓真さんは少し笑いながら
「もっといい花にすればよかったな」
と言った
いつも一緒のだったんじゃないの?
理由……聞いても、いいのかな
「さっきお花屋さんで慣れたみたいに頼んでたけど、何か思い入れがあって同じやつ頼んでたんじゃないの?」
俺が尋ねると、拓真さんは少し申し訳なさそうに眉を寄せる
「いや、思い入れはない」
