
泣かぬ鼠が身を焦がす
第35章 秘事は
え、ないの……?
「あの頃、金のなかった俺が花屋に行って見つけた出来合いの安い花束なんだ。毎回同じのを買うから、店の人も誤解していたみたいだが、全く意味なんてない」
「そう、なんだ……」
確かにさっきお花屋さんに完成した花束がいくつか置いてあったような
アルバイトとかで忙しかったら、作ってもらって待ってる時間もなかったのかな
「金のない中でも母に対して何か形として出来ることがしたくて、毎回同じものを作ってもらっていた。いや……毎回同じだったのは、ただ単にあの時の気持ちを忘れないためか」
あの時の気持ち
拓真さんからお母さんへの謝罪の気持ち?
それを変えれば良かったって言ってたってことは……
俺が拓真さんの言葉の意味を考えていると、拓真さんが振り返った
そして、今日見たなかで1番いい笑顔で
「不安にさせて悪かった。おいで」
と俺を呼ぶ
「うん!」
俺は喜んで拓真さんの腕の中に飛び込んだ
「母さん、この人が俺の大事な人だ。紹介が遅くなって済まなかった」
「……」
「俺はもう1人じゃない。この人が……純が、側にいてくれる。だから心配しないで、俺のことは忘れてくれ」
