
泣かぬ鼠が身を焦がす
第36章 一生添うとは
そう言って新しく部屋に置いてあった浴衣を手に取る拓真さん
「? 部屋のお風呂じゃなくて?」
「あぁ」
大浴場行くのかな
俺的には嬉しいけど……
いや、やっぱり昨日迷惑かけたしちょっと行きたくないかも
その考えが顔に出ていたのかいないのかわからないけど、「早く」と拓真さんが珍しく急かしてきた
何で急ぐ必要が……
お風呂は逃げないんだよ?
それとも、あ……
晩御飯の時間帯で空いてるとか?
ありそう
浴衣と下着、タオルを持って準備を終えると、また部屋を出て廊下を歩いた
けど
「拓真さん? お風呂はその階じゃないよ」
移動するために乗っていたエレベーターで拓真さんが押したボタンが昨日行った大浴場とは違って、俺は拓真さんに聞いてみる
すると正しいボタンを押そうとした俺を遮って拓真さんが
「これで合ってる」
と言った
「?」
いや、あってないと思うけど
つーかほら、エレベーターの壁に大浴場の階数も書いてあるじゃん
やっぱ違うじゃん
でも自信満々な拓真さんが間違ってるとはどうも思えなくて、大浴場がある階ではないところでエレベーターを降りた
「こっちだ」
