
泣かぬ鼠が身を焦がす
第37章 好いた鼠は泣いても連れる
「終わったぞ」
「ありがとうございます」
拓真さんがさっきまで目を通していた書類を俺に渡してくる
それを受け取って一旦自分のデスクに戻り、書類を置いてからまた社長室に入った
すると、仕事を終えている拓真さんはもうそこにはいない
付けっ放しになっていた社長室の電気を消してから俺が入って来たのとは違うドアを開けると、何年も暮らして来た俺たちの住居がある
入った瞬間、待ち構えていた拓真さんに抱き締められた
「ふふ、お疲れ様です」
「敬語はやめろ。仕事は終わったんだろう」
「うん。なんか癖で」
俺が口調を戻してそう言うと、俺を咎めるように拓真さんが口にキスをした
社長にタメ口で話すなんて出来るわけないけど、急に戻すのだって難しいんだってば
「先に風呂入ってくる」
「うん」
暫く俺にキスをして、満足したらしい拓真さんがお風呂場に消えていく
一緒に入る、なんて言わなくて、尚且つ俺を待たずに部屋に戻って来てた
こういう日は
俺は拓真さんを見送ってからベッドの横に置いてある本を手に取った
これはプロポーズと同時に拓真さんに渡された本
首のチェーンを辿って取り出した鍵で鍵付きのその本を開ける
