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ちよこれいと

第1章 ちよこれいと

「……も、良いです」

先輩が何を考えてるのかわからない。
どうしてチョコが欲しいって私に言ったの?
チョコなんてたくさん貰ってるでしょう?

先輩のことだもの。チョコはたくさん貰ってる。
でも、そう思って並んだ鞄を見て気が付いた。先輩の黒い肩掛けはクタッと拠れて倒れてる。箱らしきモノ、どころか教科書さえも入っている気配がない。

もしかして、チョコ、貰えなかったの?
先輩が?
……だから放課後、通りすがりの私を呼んだの?

…………

認めたくなかったけど、私をからかう先輩の態度に遊ばれてるのを確信してしまった。
だから、そんな顔されても……

「私、帰ります」

チョコが欲しいと言われて嬉しかったの。
手を引かれて歩いて嬉しかったの。
先輩の家に呼んで貰えて嬉しかったの。
オルカが欲しいと言われて嬉しかったの。
先輩もドキドキしてるのが嬉しかったの。

たくさん、たくさん嬉しくて、ドキドキして、赤くなって……

全部独りよがり。
……ばかみたい、私。

あ、涙出そう。
先輩に見られたくない。

顔を伏せたまま立ち上がり、先輩の横を通り抜けた。
コートとカバンを取って、チョコの入ったコンビニ袋は置いていく。

持って帰りたくない。

玄関に向かって先輩の横をもう一度通り抜けようとしたその時、腕を掴んでひき止められた。

「チョコ、ちょうだい」

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