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ちよこれいと

第1章 ちよこれいと

おずおずと手を重ねると、暖かい先輩の手が私の手をキュッと握った。それはまるで、逃げることを警戒してるよう。

靴を脱いで、ゆっくりスリッパに履き変えた。

「お邪魔、します」

上がってすぐにキッチンの付いたリビングダイニング。案内されたのはその奥に続く部屋。突き当たりには大きな窓。

フローリングの床に毛足の長い濃茶のラグ。右の壁に背の低い木の本棚とシングルサイズのベッドが並び、反対側の壁の窓寄りにコート類を掛ける……あれ何て言うんだろう……突っ張り式の衝立てみたいなのがある。

そこにコートを掛けてた先輩がハンガーを手に、リビングの私を振り返った。

「コート、掛けるよ」
「あ、はい、スミマセン」

差し出された手に慌ててコートを脱いで前に出る。ハンガーを受け取ってもたもた通していると、ヒョイと取り上げられてしまった。

先輩の杢グレーのコートと並ぶ私の濃紺のコート。その下で先輩の斜め掛けの黒いカバンと私の学生カバンも並んでる。ちょっとアンバランス。

何か不思議な感じ……

ぼんやり眺めて、ふと気付く。

そういえば私、部屋の中に入ってる。
そのためにコート、呼ばれたとか?

……考え過ぎ、ですよね。

「立ってないで、適当に座って。お茶入れてくるから」

自問自答してる私の前を先輩が通り抜けた。
適当にと言われても、ラグの上には何もない。
何処に座るか悩んでいると

「ベッドに座ってくれても良いよ」

頭の後ろから先輩の声が聞こえた。

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