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マーメイドな時間

第25章 野田目幹太と寿司屋の親方

 俺は、人魚を食べに来たのだが、状況が変わった。


「お客さん、少し待っていただけますか?」


 親方はのれんと看板をしまい、「営業中」と書かれた札を裏返して、「準備中」にした。


「もう、店を終うんですか?」


「今日だけですよ。この話、ゆっくりしたいんでね。だから、店を閉めました」


「すいません……」


「いやいや、お客さんは気にしないでください。それと、お時間5分ほどいただけますか?」


 そう言うと、皿を出し、寿司を握り始めた。


 適当に握っているネタの中には、人魚も入っていた。


 海の宝石箱とはよく言ったものだ。プロの職人にかかれば、食べるのがもったいないほど、美しい。回転寿司には、出来ない芸当だ。


「お待たせしました。召し上がって下さい。今日はお代はいりませんから」


「いや、それは出来ませんよ。後で払います」


「いやいや、結構だ。私の話を聞いていただける、そのお礼ですよ」


「はぁ……まあ、せっかく握っていただいたので……すいません、いただきます」


 俺は寿司をつまんだ。


 人魚の寿司を取った時、生け簀にいる人魚が目を背けた。



 仲間の肉が食われる。人魚にとって、これほどショッキングな場面はないだろう。



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