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マーメイドな時間

第4章 家庭教師「山本茂晴美」

「はい、開いてますよ」


『ズリ……ズリ……』


 なにをやってる音だ?


『カチャ』


 答えを想像する前に、ドアが開いた。


 ほのかな磯の香りが鼻につく。


 なぜだろう……挨拶しなきゃいけないのに、怖くて振り向けない。


「こんばんは、頑張ってる?」


 声を聞くと、ドキドキする。


 夜中に聞くと、股間が疼く声だ。


「あ、今日もよろしくお願いします」


 失礼とは思ったが、顔は合わせなかった。


 照れ臭いのか、現実を直視したくないのか……。


「えっと、今日も数学からいこうか。学校ではどのあたりまで?」


 そもそも、この先生は人間の学校に通ってたのか?


 僕はいったい、なにに勉強を教わっているのだ?


 そんな疑問を抱きつつも、僕は学校で書いたノートを先生に見せた。


「えっと、これね。じゃあ、今日はこの問題集を使うから、このノートに書いてあるのと近い問題をやろうか」


「あ、はい」


 僕は口に出して言いたい。


 でも、言えない。



「お前、人魚だろ」と……。


 言ったら、怖い。



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