けだもの系王子
第7章 聖矢、腹黒系?
はっきり言ってただの散歩。
椿さんは無口。
街中をただ歩くだけ。
何も言わずについてくる。
興味深い雑貨屋にあたしがふらりと入って行くとついて来るし。
可愛い服を見てると一緒に見ている。
ただあたしに合わせるだけ。
「疲れたから帰ろうかな?」
そんなに一緒に過ごしてないのに。
いつものようにすぐの解散宣言。
椿さんは何も言わずにふっと笑う。
「じゃあ、送りますよ」
椿さんの家の運転手を呼んで、それに乗ってあたしのマンションに送ってくれる。
「それじゃあまた、次に会う日を楽しみにしています」
そっとあたしの右手を持って唇を寄せてキスをする。
「……っ!
じゃあ、ありがとねっ」
あたしは慌てて手を引っ込めて。
車から降りた。
静かに走り出す車を眺める。
はぁ〜っ!
溜め息をひとつついた。
椿さんとは清い関係。
いつも別れ際に手にキスをされる。
それだけなんだけど、妙に緊張する。
キスと言っても必ず手にキスをされるだけ。
なんだろう。
手フェチという奴なのかな?
自分の手を眺めてぼうっとしていた。
「ふうん。
ああいうタイプ僕の嫌いなタイプだな」
聞き覚えのある声に振り返る。
「清潔感ある優等生タイプで真面目で真っ直ぐ、正しい事しかしない。
ああいうのがタイプなんだ?」
聖矢だった。
いかにも不愉快そうにして拗ねたように口を尖らせている。
「あんたには関係ないでしょう?」
「僕は麗奈さんが気に入っているから、ああいうのは面白くない」
「あたしはあんたのおもちゃじゃないからっ?
面白いおもちゃが欲しいのならよそをあたりなさいよっ?」
イライラしながら睨みつけてやる。
聖矢はただあたしの事を気に入ったとしか言わない。
ただ面白くていじられてるだけ。
あのキスも単なる嫌がらせで。
深い意味なんか最初からない。