けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
「お疲れ様でしたっ」
メイドのコスプレのような制服から、いつものジーパンとTシャツに着替える。
ウィッグを脱ぐとほっとする。
ショートボブだけど、短いからメイドの格好が似合わないから、いつもウィッグをしている。
お陰で知り合いにも気付いて貰えない。
ありがたいけど、やっぱり暑苦しい。
「あれっ?君、誰だっけ?新しいウェイター?」
「よろしくお願いしますっ、ちいですっ」
「よろしくね、ちいちゃん…てっ、えっ、ちいちゃんっ?」
友達に頼まれてここでバイトを始めて1ヶ月はたつ。
あたしからすればこの格好が素なのに、未だにびっくりされてしまう。
ウィッグだけで随分雰囲気が違うらしい。
まぁ、面白いからいいけどね。
お陰で貯金は出来るし目標額までまだまだあるけど。
お金を溜めて、今の家を出るのが目標なんだ。
頑張るぞ〜。
「ねぇ、君、あそこのイタリアンで働いているウェイトレスだよね?確か名札ではちいって名前だったけど?」
公園の前で握りこぶしをしていたら声をかけられる。
おかしいな。
ウィッグを脱ぐと分からない筈なのに。
ちっ、面倒だな。
「はい、ちいですけど?」
あそこでは名札にあだ名や下の名前を表示するようになっている。
あたしは千早なんだけど、皆がちいって呼ぶからそうしたんだけど。
振り返って、その人と目が合った。
風が吹いて曇が流れたせいか、その人の姿がはっきり見えた。
黒い短めのツンツンした髪。
キリリとした涼げな目元、少し濃いめな眉毛、端整な顔立ちの美形。
ピンとした雰囲気。
身長も高くて、イケメンが放つ特有のオーラを纏っている。
「待ち伏せのような真似をしてごめんね?どうしてもちいちいちゃんに会いたかったから」
待ち伏せしてたのか……?
何の為に?
首を傾げるあたしの前で、その人があたしの手を取った。
「俺は近くの大学院生で椿って言うんだけど、ちいちゃん良かったら、俺と付き合ってくれないか?」
「はいっ?付き合うって……?」
椿さん、に、握られた手が熱く感じた。
「小さな手だね?
俺、ちいちゃんに一目惚れしたみたいなんだ」