けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
椿さんに連れられた病院で検査を受けて、ベッドに横になって点滴を受けてしまった。
点滴なんて初めての事で、なんでそんなに大袈裟なのか椿さんに抗議したかったのに。
知り合いの先生と話をしに行ってしまった。
点滴は小さな量で、すぐに終わってしまった。
思い込みなのか、元気になった気分。
待ち合い室で椿さんを待っていた。
気分も落ち着いて、前向きな気分になれた気がして。
椿さんに会ったら言おう。
お付き合いしますって。
あたし、たぶん、椿さんのこと……。
そこまで考えて目の前に人の気配がして、足元に陰が落ちた。
椿さんだと思って、顔をあげて……。
息を飲んだ……。
「ちい……っ、バイト先でお前が倒れたって聞いて……っ、大丈夫なのか体は……っ?」
ハアハア息を荒く繰り返して、額に汗して、いかにも心配して焦って来たみたいな姿で。
あなたがどうして、どの面下げて、あたしの前に、平気で現れるの?
「真人……兄ちゃん……っ?」
震える唇。
凍りついたように動けなくなる。
「さっき看護師さんに点滴したって聞いて……そんなに体……きつかったのか?」
何を……。
何を言っているんだろうか?
この人は……?
誰のせいで……?
体が……きつかった……!?
「点滴して落ち着いたのなら一緒に帰れるか?タクシーで帰ろう、呼んで来るから、ちゃんと歩けるか?」
真人兄ちゃんの手があたしを促すように、腕をつかんで引っ張ろうとした。
ビクリとして体が震える。
「嫌っ……!お兄ちゃんと一緒になんて、帰りたくないっ!」
パシンっ!
思い切り腕を振り払う。
「ちい……っ?」
一瞬、傷ついたような、切ない表情に見えて、切れ長の瞳がすっと細くなる。
なんであなたが……。
そんな顔をするの……?
傷ついてるのは、
あたしなのに……。
緊迫した空気の中にそぐわない、澄みきった声が聞こえた。
「あれっ?お前真人じゃないか?なんでここに?ちいちゃんと知り合いなのか?」