けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
「ちい……、俺は、お前が……!」
その手があたしの方に伸ばされて、ビクリとして目を閉じる。
そんなあたしの目の前を庇うように、椿さんの背中が立ちはだかる。
「彼女にはもう指一本も触れさせない、俺が責任持ってちいちゃんを守る。
彼女を傷付けるような兄貴なんて、兄妹とは言えないよな?」
「……兄妹なんかじゃねぇよ……最初から、俺は兄妹だとは思ってなかったよ……」
もう、嫌だ。
これ以上聞きたくなんかない。
それでも。
あたしは真人兄ちゃんの事、本当の兄妹だと思っていたのに。
昔は優しくて、面倒見が良くて、ご飯だって作ってくれて、大好きだったのに。
いつの間にか意地悪になって、喧嘩ばかりするようになって、あたしは真人お兄ちゃんに嫌われているんだと思った。
血が繋がってないから、嫌われているんだと思っていた。
だから、お金を貯めて、家を出たら、本当の他人同士になるんだと思って……。
思って……。
「子供の時からずっと好きで……兄妹としてはどうしても見れなくて、どうしようもなくて、気が狂いそうだった……」
掠れたような真人兄ちゃんの声。
椿さんの背中があって、真人兄ちゃんの顔は見えない。
「お前の気持ちも分からなくもないけど、ちいちゃんを傷付けたのは許せない、そんなお前にちいちゃんは渡せない、俺がちいちゃんを預かるからな?」
椿さんの優しい言葉を背中で聞いていた。
真人兄ちゃんの言葉が頭の中に残る。
『どうしようもなくて、気が狂いそうだった……』
ズキン。
胸が痛む。
信じられない。
真人兄ちゃんがそんなふうに思っていたなんて。
信じられない……。
だからってあんな事……。
あたしの事が嫌いだからじゃないの?
あたしは真人お兄ちゃんの事なんか嫌いなのに……。