けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
泣きながら椿さんの背中に付いて行く。
広くて優しい背中。
大きなマンションに車を止めて。
椿さんに手を引いて貰って案内される。
「取り敢えず俺の家、実家だと学校やバイト先が遠くなるからね?
それなりに部屋数もあるし鍵もついてるから安心して?」
「……はい、あの……椿さん、どうしてここまで……」
どうしてここまでしてくれるの?
どうしてそんなに優しいの?
「ちいちゃんは何も心配せずに体を休める事だけ考えて?後の事は俺に任せて大丈夫だから」
「は……い」
お兄ちゃんの事とか聞きたい事はたくさんあるのに、頭の中がごちゃごちゃして、言葉は出ない。
椿さんの家は広くてなんだかガランとしていた。
シンプルで余計なモノはなくてお洒落。
マンションのモデルルームみたいだと感じた。
シンプルな部屋へと案内されて、場所とかの一通りの説明を聞いて。
あたし達の同居生活はこんな形でスタートしたんだ。
椿さんが両親にも説明をしてくれていたみたいで、必要な物も一緒に取りに行ってくれた。
「真人君が……ああ、恐ろしい……」
泣きながらあたしに謝る両親、椿さんにも頭を下げて、両親が別のアパートを用意するまでの間、お世話になる事になった。
椿さんのアパートにはお手伝いさんが昼に来てくれて、掃除や食事の準備をしてくれた。
せめて朝食だけでもと準備しようとしても、いつも椿さんが用意してくれていた。
椿さんは優しくて、何をするのも完璧で紳士で、必要以上にあたしに触れない。
あたしにはそれが、なんだか寂しい。
距離を置かれているようで寂しい。
遠く感じてしまう。
もっと近付きたい。
椿さんをもっと知りたい。