けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
穏やかに笑っている椿さん。
いつものように余裕のある、涼しい表情に見えるのに。
ピシリとした緊迫感のあるオーラを身に纏っているように見える。
あたしの腕を掴む真人兄ちゃんの腕を離して、変わりにあたしの手を優しく繋いでくれた。
安心する体温にほっとして、振り返って見ると、何故だか店長とウェイターがズラリと並んで立っていた。
「失礼ですが、お客様……」
剣呑な雰囲気でズイっと前に出る店長を慌てて制して、
「ごめんなさいっ、この人っ、お兄ちゃんなんですっ」
一応庇うように、皆に頭を下げた。
やんわりと脅迫じみた事を言う椿さんと、柄が悪い見た目渋い店長達の勢いに押されて、真人兄ちゃんは店から強制的に追い出された。
あたしはそのまま、椿さんの家の高級車に乗せられてマンションに一緒に帰った。
椿さんは真人兄ちゃんを実家の使用人に頼んでずっと見張っていたらしい。
真人兄ちゃんは真人兄ちゃんで椿さんが、あたしから離れる様子を伺っていたようだ。
大学院で教授との大事な研究を断って、真人兄ちゃんの様子を見ていたようだ。
「真人とは大学でも同じサークルだし、高校も同じ生徒会で俺にとっては可愛い後輩でもあるからね、妹のちいちゃんの話も聞いた事があったから、複雑な心境なんだけど……」
マンションのリビングの広いソファーに座って話をする。
「あいつ、あの様子じゃ、ちいちゃんの事諦められないよな、渡す気は勿論ないけどね?」
涼しい顔してさらりと言う。
椿さんは紳士で、本当の王子様みたいで、いつもスマートで格好いいけど。
そんな事言われたら。
期待してしまう。
椿さんにとってはあたしを、ただ保護してくれただけなのかもしれないけど。
あたしは違う。
「渡す気はないって……ただの保護者として?」
思い切って聞いてみる。
キョトンとした顔の椿さん。
身を乗り出して、椿さんの端整な顔を覗き込む。
そのままの格好で帰って来たから、あたしはメイドのコスプレのままで。
ウィッグの長い黒髪が、さらりと椿さんの顔にかかった。